ぐるめぐのアニメ雑記

アニメの作画とか演出とか感想とか、拙いけど語らせて

『アイドルマスター シンデレラガールズ』1話 監督・高雄統子の演出

過去にtumblerにて投稿した記事をこちらで再掲。

 

 

浅学故恥ずかしいミスリードがあるかもしれません。。
アイドルマスター シンデレラガールズの第1話は魅力的だった。
公式チャンネルで無料公開しているのもあって、何度も何度も見返してしまう。
そんなデレマス1話に魔法をかけられたように魅入られてしまったので、とにかく語りたい。

アイドルマスター シンデレラガールズ 第1話』 
脚本:髙橋龍
絵コンテ:高雄統子
演出:原田孝宏・矢嶋 武
作画監督松尾祐輔

島村卯月はアイドルを夢見て養成所に通う普通の女の子。ある日卯月の前にやって来た346プロダクションのプロデューサーに、シンデレラプロジェクトの再選考枠三名のうちの一人として合格したと告げられる。喜ぶ卯月だがプロジェクトスタートにはメンバーがまだ二人足りず……。Pはもう一人のアイドル候補、渋谷凛をスカウトしようとしていた。しかし凛はアイドルに興味がないとスカウトを突っぱねていて……。 

第1話の絵コンテを担当したのは同作品の監督・シリーズ構成を務める高雄統子だ。人物の内面を丁寧に描写する緻密な画面に、無駄のないカットの構成で見ていて心地がいい。ここではそんな画面の演出について、「そんなの言われなくても知ってるよ」っていうようなのも含めて僭越ながら解説していきます。


 

第1話は作品の主人公である「島村卯月」と「渋谷凜」を軸にした「シンデレラガールズ」の始まりの物語。
内Pを通して卯月から凜へ、バトンのように希望の光が差し掛かっていく構成になっている。
アイドルを夢見る卯月、希望を見出したい凛。彼女らの期待と不安は心象として画面の至る所に潜んでいる。

注目したいのは「光と影」の演出だ。

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↑アバン直後のAパート。武内Pにプロデュースされる前の卯月が通う養成所。彼女の上方にある蛍光灯だけ点いていない。暗い室内という印象。

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↑武内Pにプロデュースされた直後。時計から調整中の張り紙が剥がれ落ちる。
シンデレラの魔法、彼女の物語が動き始める。

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シンデレラプロジェクトについて説明を受ける卯月。陽の光が差し込み、先のレッスン場に比べて徐々に明るさが増していっている印象。画面を占める割合が影よりも光の方が多くなっている。

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↑少し飛ばしてBパート。武内Pにプロデュースされた後の養成所。Aパートの同ポジのカットと比べてみると一目瞭然だが、奥の蛍光灯だけでなく手前の蛍光灯も点灯し明るい室内へ変わっている。
アイドルを夢見る彼女に、希望の光が差し込んだ。

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↑第1話のもう一人の主人公である渋谷凛の初登場。
このシーケンスでは彼女の顔は画面に映らない。

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↑(画像1枚目)少し気づきにくいが、鉢の向こう側に渋谷凛の姿が。しかし顔は見せない。
また、1枚目と2枚目に映る時計。時間の経過としての役割だけではなく、シンデレラの暗示として機能している。

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↑遡ってアバンの「お願い!シンデレラ」がBGMに流れるシーケンス。これからの登場を予感させる彼女ら(全員分のキャプションは多すぎるため割愛)と同様にあえて顔を見せないことで、渋谷凛もまたシンデレラガールであり、そしてこの物語の主人公であるということを予感させ印象付ける。

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↑凛初登場のシーケンスのラストのカット。初めて彼女の顔が映ると同時に、店内から彼女の母親と思しき女性の声が「凛~!」と彼女の名前を呼ぶ。
顔を見せないことで物語における彼女の重要性を示唆させた後、顔と同時に名前を明らかにさせることで印象に強く残るようになっている演出だ。

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↑「アイドルなんてわけわからないもの、興味ないから」と武内Pからの勧誘を頑なに拒否し続ける凛。
(2枚目)勧誘を拒否し、横断歩道を渡る凛。画面に映る信号は赤。
(3枚目)「今年新入部員何人くらい入るかな」「ねー」「あー、私たちももう先輩か」「頑張らないとね」
夢中になれる何かを見つけ、前向きに青信号を渡っていく女の子たち。
対照的に一人歩く凛の後ろ姿は、どこかむなしい。

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↑「あなたは今、楽しいですか」武内Pにそう問われる凛。「それ、あんたに何か関係あるの」と二人の会話をこぼしつつ、画面はその問を受けた後の彼女の日常が映し出される。
2枚目の逆光を受けた彼女が見せる切ない眼差しは、夢中になれる何かへの羨望を強く感じさせる。
彼女はまだ、光の内側にはいない。

ところで少し話は逸れるが、第1話は同ポジのシーケンスを繰り返しで見せることが多い。武内P渋谷凛へのシンデレラプロジェクトの勧誘と、「レッスンを」とだけ卯月に告げるの繰り返し。
内Pのひたむきな勧誘の姿勢がテンポよく進み、ともすればストーカー行為でもあるのに、不快感を視聴者に与えることなく小気味よく見せることに成功しているのではないだろうか。

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↑対面する卯月と凛。二人がいる場所は日の当たらない木陰。

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↑卯月、光の下へ。
「Pさんは、私を見つけてくれたから」
「私は、きっとこれから、夢を叶えられるんだなって」
「それが嬉しくて」
最高の笑顔でそう語る卯月。

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↑(1枚目)風に揺られ木漏れ日がこぼれる。卯月の光は、凛の影へと差し込んだ。
(2枚目)陽と影の対比。彼女ら二人の対比関係は、この後の物語にも重要なものになっている。
この時凛は思わずリードを手放し、ハナコは影の外へ向かう。

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↑ハナコが駆け寄る先には武内Pが。
さて、ここで一先ず注目しておきたいのは、この回における武内Pと犬の関係性だ。

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↑武内Pは渋谷凛への勧誘の際に2度犬に吠えられている(1枚目)。
公園のシーケンスでも、凛が「あの人、変じゃない?」と疑念を卯月に打ち明ける場面で犬に吠えられているのが確認できる(2枚目)。
即ちこの回における犬とは、渋谷凛の武内Pに対する疑心、不信のメタファーといえる。

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↑卯月から光のバトンを受け、思わず警戒心(=ハナコ)を解いて光の下へ飛び出した凛。
「少しでも、君が夢中になれる何かを探しているのなら、一度踏み込んでみませんか。そこにはきっと、今までと別の世界が広がっています」
その言葉に期待と不安が入り混じったような複雑な表情を見せる凛。彼女の手に再び握られたリードは、自身のPへの期待に対する警鐘なのかもしれない。

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↑ 白いアネモネ花言葉は「期待、希望」。 
 彼女の暗い部屋に差し込む一筋の月の光は、アネモネ越しに彼女の一部だけを照らす。
アネモネを見るその視線は、期待で輝いているようにも見える。
それでも差し込む光が彼女の瞳より下なのは、今の彼女にはまだ眩しすぎるからか。

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↑(1枚目)今日を振り返った彼女の心内描写。卯月は日の当たる場所に、武内Pは日陰にいる。凛にとってのアイドルに対する憧れと不安の象徴。
ずっと光の内側にはいなかった彼女だが、武内Pと、そして卯月との出会いによってほんの少しだけ、光が差し込んだ。
夢中になれる何かへの期待と、同時に不安を胸に抱えて……。


 

島村卯月渋谷凛を軸にして、これからの未来に対する期待と不安ではじまったシンデレラガールズ。おそらくにして、モバマスPや、長らくアイマスを愛してきた視聴者も同じような心持ちでこの第1話を見届けたのではないだろうか。
僕は何度もこの1話を繰り返して見ては、そのたびに希望と不安が入り混じる初々しいような気持ちになっている。

冒頭にも記したが、この回の絵コンテを担当したのは高雄統子氏。氏は前作アイドルマスターでも数話絵コンテを担当していて、巧みな演出で人物の内面を描写しドラマを盛り上げた。
この回も1カット1カットに無駄がなく、人物の内面を表現するのに洗練された画面だ。高雄統子氏の「地に足の着いた人間ドラマ」を描こうという気概を感じる渾身の回といえよう。